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MotoGP、EWCからの撤退でスズキが本当に失うもの

MotoGP撤退はチーム、ライダー、スタッフ、ファンにとって衝撃だった

「現場で全力で戦うチームとライダー、最終戦まで戦闘力UPのために必死に開発を続ける本社を含めた開発スタッフは最後まで心から応援する。でも今後のスズキというブランドには期待しないし、希望も持てない。」

これが今年の5月に突如MotoGPからの撤退を表明、7月にはドルナ・スポーツと正式にMotoGP参戦終了を合意したと発表したスズキ株式会社に対して、スズキファンが感じた感想だろう。

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2011年末にはリーマンショックによる世界経済の落ち込み、東日本大震災などの影響でMotoGP参戦を休止したスズキだが、2015年に新型の並列4気筒エンジンのGSX-RRで参戦を開始。経験が浅いライダー(マーべリック・ビニャーレス)とベテランライダー(アレイシ・エスパルガロ)とで開発を進め、若い有望ライダーを確実に育ててエースにする方針で、マーべリック・ビニャーレスを育てつつ、着実に結果を残していった。

2017年は成長著しいマーべリック・ビニャーレスがヤマハファクトリーチームへと移籍するが、再度ベテランライダー(アンドレア・イアンノーネ)と有望なルーキー(アレックス・リンス)を器用。苦戦しつつも開発を進め、アレックス・リンスはチームの思惑どおりに成長。

2019年は経験を積んだアレックス・リンスに加え、さらに有望なルーキーとしてジョアン・ミルを獲得。2020年にミルは盤石な走りでポイントを重ねて、スズキ株式会社の100周年記念、レース活動開始から60周年記念の節目にMotoGPタイトルを獲得した。

2022年以降もスズキのMotoGPにおける活躍は約束されていた

2021年、2022年は引き続きアレックス・リンス、ジョアン・ミルの布陣で戦い、ドルナ・スポーツとも2022年〜2026年まで5年の参戦契約を交わし、2度目のスズキのタイトル獲得を多くのファンが期待していた。

なお、2021年からはモンスターエナジーをスポンサーに獲得。エストレージャ ガリシアのスポンサードも得ており、さらにチーム力強化のために、リヴィオ・スッポをチームマネージャーに迎えたことで、2022年から先も強力なチーム、素晴らしいスポンサー、最高のライダー、戦闘力の高いバイクで、スズキの活躍はある意味約束されていた。

スズキが本当に失うもの

ここまでの組織、チーム、開発体制、ライダー、バイクを含めた総合的に戦闘力の高いパッケージを作り上げるのにかかった時間、労力、多くの人の献身、そしてスズキ自体の投資が莫大であったことは間違いない。

しかし、ここまで作り上げておいて、プロジェクトに関わった全ての人達の人生、生活が回り、希望と夢を持つことが出来、未来への楽しみ、このプロジェクトに携わったことに関する誇りを感じている状況で、そして世界中のファンの希望、楽しみ、夢、情熱をプロジェクトが背負った状況で、スズキ株式会社はなんの説明もなく、MotoGPからの撤退を突如として5月に表明したのだった。

MotoGPに関わる全ての人、そして応援していたファンからすると、いきなり梯子を外されたという感触がものの見事に当てはまった状況だった。ドルナ・スポーツとの契約違反、多くのスタッフの人生、生活に影響を与えながら、スズキ株式会社からの正式発表にはさらに時間がかかった。

さらにはMotoGPのみならず、世界耐久選手権(EWC)からの撤退も明らかになり、市販車をベースとしたロードの国際選手権への参戦がない以上、今後フラッグシップであるGSX-R1000シリーズのニューモデル発表は期待出来ず、ひょっとすると今後一切ない可能性すらある。

「今後はレースで培った技術力、人材をサステナブルな社会の実現に向け、新たな2輪事業の創生に挑戦していく」といった説明がスズキ株式会社の鈴木俊宏氏からあったものの、「物事の順序がおかしい」と感じたファンのほうが多かったのではなかろうか。

私(筆者)は学生時代に見た隼に一目惚れしてスズキのバイクに興味・憧れを持ち、GSX-Rという存在に感化され、スズキ株式会社の門戸を叩いた元スズキ社員だ。スズキ退社後もスズキ、GSX-Rシリーズへの愛は変わらず持ち続け、Ducatiに一時期浮気をしたことがあったものの、結局現在の愛車もGSX-Rだ。

しかし、ここまでスズキ愛が強い人間でも、今回の件で感じた感想は冒頭のとおりだ。いや、むしろ長年のスズキファンのほうが、今回のスズキの決定には心底がっかりし、涙が出たはずだ。

これで来年からMotoGPを見なくなるファンもいるだろうし、次のバイクにスズキは選びたくなくなったというファンもいるだろう。旧来からのスズキファンも、経営陣は今後の会社存続のために重い決定をしたのであろうことは一定は理解しつつ、スズキというブランドから心が離れてしまったファンは私だけではあるまい。経営陣が思っている以上に、スズキ株式会社が失ったものは大きい。

サイト、ソーシャルメディアの閉鎖は戻ってくることがない事の意思表明

なお、スズキは1999年から続いてきたsuzuki-racing.com、関連する全てのソーシャルメディアを今月末で閉鎖する。企業にとって最大の広報ツールであるブランドサイト、ファンと繋がるためのソーシャルメディアの閉鎖。これこそスズキ株式会社が2輪レースから完全に撤退し、戻ってくる意思がないことの何よりの証明と言えよう。

2015年から振り返れば、彗星のように駆け抜けていったTeam SUZUKI ECSTAR(チーム・スズキ・エクスター)のMotoGPでの活躍、そしてGSX-R750から始まったフラッグシップであるGSX-Rシリーズの、FIM スーパーバイク世界選手権(SBK)、世界耐久選手権(EWC)での活躍。スズキファンは今月の終わりに、こうしたスズキのレース活動、ブランドへの愛、大切な思い出を心にしまう。その扉が再び開くことはあるだろうか。

(Photo courtesy of suzuki-racing)

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