中上 貴晶は今年に入ってマルケスのようなリアブレーキを多用するスタイルでスピードを発揮しており、オーストリアでは表彰台も可能なレースを見せた。今シーズンはバイクの相性が良いサーキットであれば素晴らしい結果を期待出来るが、ライディングスタイルについて、今の選手権のレベルについて、また将来について語っている。
2戦目のヘレスからマルケススタイルを取り入れてきた
中上 貴晶
「今年使用しているバイクは2019年型ではありますが、昨年マルク・マルケスが合計で400ポイント以上を獲得しているバイクで、高いポテンシャルがある事は明らかです。しかし結果を残せたのはマルクのみで、ホルヘ、カルは苦戦を続けていました。」
「今年の自分はライディングスタイルを昨年から変えています。開幕戦でこのままのライディングではダメだと感じ、言うなればマルケススタイルでライディングをするように調整してきました。マルクはブレーキングの際にリアブレーキを多用しており、両方のタイヤを使ってしっかりとブレーキングをしているんです。自分の場合は間逆で、今までブレーキングでリアを使う事はあまりありませんでした。」
「2戦目のヘレスからブレーキングでリアを使用するようにライディングスタイルを変えたところ、今まで以上に楽にバイクを止めることができるようになり、体力も使わないで済むことがわかりました。もちろん完璧にモノにできているとは思いませんが、徐々にマルケススタイルでのライティングの方法がわかってきて結果も出ていると思います。前回のオーストリアでは赤旗による中断はアンラッキーでしたけどね。」
「マルクとセットアップは完全に異なります。当たり前ですが身長も体重も異なりますし、ライディングスタイルも異なります。セットアップやバランスは自分が好む形にしていますが、ブレーキングだけはマルケスのスタイルにしており、前後両方のタイヤでバイクを止めるようにしています。」
「オーストリアはストップアンドゴーの作りですから、バイクを止めることが非常に重要になります。ですから、オーストリアに関しては自分のライディングをマルクに近づけること、できる限りリアブレーキを使用してバイクを止めることに集中していました。」
「レース1は普通の出来でしたが、レース2はすばらしい内容で、あと少しでポールポジションを獲得することもできたでしょう。オーストリアについてはリアブレーキで止まることが非常に簡単なトラックだったわけですが、ミサノについては長いストレートもありませんし、ブレーキングが重要になるサーキットでもありません。」
「どちらかと言えばヤマハのバイクに合ったハンドリングが重要になるサーキットです。ホンダのバイクはハンドリングが難しいバイクですが、最大の強みはブレーキングです。ですから、今週末のレースがどうなるか見ていきたいと思います。しかし今までの結果もありますし、自分たちは素晴らしいチームだと思いますので自信はあります。」
Ducatiと比較するとトラクションは負けている
「通常、練習走行では他のバイクの後ろで走る事は難しいんです。みんなの手の内を見せたくはありませんからすぐにスローダウンしたり、後をつけられないように工夫をしています。ただ前回のレースの中で、ジャックのバイクを約10周にわたって追うことができ、色々と観察をすることができました。」
「トップスピードに関してはDucatiのほうが勝っていますが、ブレーキングはホンダのほうが上でしょう。加速についてはいくつかのコーナーでDucatiのほうが上回っています。ボタンを押しているのか、どういう仕組みなのか分かりませんが、特に低速コーナーではエイペックスを過ぎたあたりでバイクの車体後部がぐっと下がり、そこからの加速のトラクションはものすごいものがあります。」
「スズキのバイクはヤマハに近いと感じていて、彼らは素晴らしい安定感があり、ハンドリングも素晴らしいと思います。しかし、KTMのことを忘れてはいけません。トップスピードも高いですしハンドリングも良さそうです。安定感もありますね。どうやって開発しているのかわかりませんが、ダニ・ペドロサの貢献が大きいのでしょう。」
MotoGPのレベルは拮抗している
「とにかくすべてのバイクの実力が拮抗していて、まるでMoto3のように0.1秒を失うとトップ10を逃すという状況です。常に最高の走りをする必要があって、FP3のタフさは予選以上です。誰もがラップタイムを出すために狂ったような走行をしているんですよ。」
「オーストリアではトップタイムから10位の選手までの差がわずか0.3秒でした。非常に厳しい戦いですし競争は激しいのですが、非常に楽しいですね。こうした状況の中で表彰台争いや、トップ5を争うことができているのは非常に嬉しいです。」
2020年型はパワフル故にバランスが悪いのかもしれない
「2019年型と2020年型のシャーシは非常に似ているんです。ですから、なぜ2020年型でカルが苦戦しているのかはわかりません。2020年型のほうがエンジンパワーは高くて、そのせいでバランスが悪いのかもしれませんが詳細は分かりません。」
「アレックスはルーキーですがカルとコメントの内容が似ていて、ブレーキングでの苦戦と、パワフルなエンジンであることによって加速時にスピンが発生するという問題を抱えているようです。」
「自分の手元には2019年型しかありませんから、今のパッケージに集中しているだけです。もちろん時間があれば2020年型について話をしてみたいと思いますが、レースウィークエンドの中では不可能でしょう。」
「もちろんファクトリーチームでファクトリーバイクに乗ることがライダーにとっての夢ですが、LCRであっても素晴らしいパフォーマンスを発揮できていますし、このチームで走ることができて本当にうれしいです。レギュレーション上は不可能ですが、もし2020年型のバイクに今年乗れるのであればもちろん乗りたいですよ。」
今後の日本人選手の活躍について
「10年前と比較するとアジアのタレントが育っていると思います。アジア・タレントカップもありますしね。自分が知っていた時はスペイン選手権や世界選手権に参戦するのは非常に難しい状況でした。今は10年前と比べて参戦が楽になったと言いませんが多くのチャンスがあると思います。」
「実際問題として、車両メーカーとしてホンダ、ヤマハ、スズキ、少し前にはカワサキもバイクを走らせていました。それなのに世界選手権で走っている日本人がここまでも少ないのはやはり妙ですよね。1つ考えられるのはMotoGPの人気が日本では高くないからでしょう。」
「例えばスペインであればMotoGPかサッカー、テニスといった具合ですが、日本の場合は野球かサッカーが人気なスポーツでMotoGPは人気がありません。サーキットの数も少ないですし、MotoGPが何であるか理解している人もほとんどいません。ですからスポンサーを見つけるのも本当に大変なんです。」
「しかし最近はドルナがアジア人選手の育成に力を入れていますから、Moto3クラスでは本当に多くの日本人選手が活躍しています。日本人選手は常にポールポジションや表彰台争いにも絡んできていますね。」
「ですから日本人選手にとってもその他のインドネシアやタイの選手にとっても将来は明るいと思います。ですから最高峰クラスにも自分以外の日本人選手が参戦してくれることを願っています。」
まずは表彰台獲得が目標
「現在チャンピオンシップスタンディングでは6位ですし、奇妙なシーズンではありますが非常に良い形でレースをすることができています。今年は多くの選手にとってチャンスがあると思いますし、それもあって皆狂ったようにレースをしているわけです。」
「今年はもちろん全力を尽くして走るわけですが、目標としては表彰台を獲得することですね。自分にとってもにチームとっても将来の為にも重要な結果になるでしょう。」
「おそらくこの先数年はLCRで走ることになるんじゃないでしょうか。その中でファクトリーバイクを使用できればと思います。」
(Source: HRC)
(Photo courtesy of michelin)