ダニ・ペドロサが引退を発表したのは、ザクセンリンクで行われたドイツGPでの大きな衝撃でした。レプソルホンダチームとしてはどのような考えでロレンソと契約を交わしたのか?今後のマシン開発の方向性などはどうなのか?アルベルト・プーチ、桒田さんの両名が語っています。

Q

「なぜロレンソと契約をし、ペドロサとの契約更新をしなかったのですか?」

アルベルト・プーチ

13年間ペドロサと一緒にやってきて、その他の可能性を試してみたかったんです。ロレンソはMotoGPクラスでチャンピオンを獲得していますし、ロレンソを獲得するというのは非常に興味深いオプションでした。ホンダのバイクが他のライダーでどのように機能するのかというのを見てみたいという気持ちもありました。ダニはホンダで長いことやってきて多くのチャンスがあったと思います。13年間というのは長いですから。そこで違うライダーを試してみようという結論になったんです。」

 

Q

「来年強力なチーム体勢となったことに関しておめでとうございます。2人の非常に強力なパーソナリティーを持ったチャンピオン2名という体勢ですが、これに関して何かしら問題が発生することを予想していますか?もしそうであれば、2人とも勝ちたいと強く願うライダー達をどうやってコントロールしていくのでしょうか?」

アルベルト・プーチ

トップチームは最高のライダーを確保したいわけでこれが原則です。ロレンソを獲得出来る可能性があったのでそれを確保したということです。他のチームがどうやっているのか、もしくはやっていないのか知りませんが、ホンダにとっては出来る限り最高のバイクを用意すること、出来るだけ速いライダーを確保すること、そして彼らがどういった結果を得ることが出来るかということを見ていく。そういったやり方なんです。考え方としては単純で、もちろんレースというのは簡単なことではありませんし、難しい環境なわけです。ただもし難しい事を嫌うのであれば、ホンダはそもそもこのレベルでのチーム運営なんてしていません。ホンダは常に挑戦を求めているんです。

 

Q

「ロレンソ以外に誰かを考えていましたか?またロレンソがあなたに電話をしてきた時のことを少し教えて下さい。」

アルベルト・プーチ

「お話したように他の可能性を見たいと思っていました。正直あまり多くの選手と話はしていません。ただシーズンが進む中でどうなっていくのか見ていたんです。カジュアルな話を数名のライダーとしていましたが、正しい決断が出来たと思っています」

 

Q

「ダニのキャリアの最初から最後まで一緒にやってきたわけですが、彼のキャリアについてどう思いますか?運は別としてMotoGPクラスにおいて彼にとって残念だったということは何でしょうか?」

アルベルト・プーチ

「ダニは素晴らしいキャリアを歩んできたと思います。それに多くを成し遂げてパドックを去ることになると思います。他の色々な選手達よりも多くのことを成し遂げていると思います。彼の優勝回数にしてもそうですし。1つ言えるとすると、あれだけ小さな体で巨大なマシンと格闘しながら、本当に素晴らしい記録を打ち立てたと思います。これこそが彼にとって最も難しいことだったと思います。しかし彼はそのポテンシャルと技術で、こういった記録を打ち立てたんです。本当に素晴らしいと思いますよ。」

 

Q

「エンジンに関してホンダのライダー達は今年大きな改善があったと話しています。大きな秘密ということに関してはお話出来ないのだということはわかっていますが、そういった秘密には触れずに何が今年エンジンに関して良くなっているのか?何をしたのか教えて下さい。」

桒田 哲宏

「確かにトップスピードに関して昨年から向上しているのがわかるでしょう。これはエンジンサイドからの改善ですが、それに加えてシャーシ、電子制御の面でもライダーのために改善をしようとしてきました。色々な面で今年改善を進めてきたんです。」

 

Q

「来年ダニをテストライダーとして確保するという考えはありますか?」

アルベルト・プーチ

「そういった可能性に関しては話しています。彼はホンダのマシンを良くわかっていますからね。彼がそういった形で継続したいかどうかはわかりません。彼がどのような決断をしようとも、我々はそれを尊重するだけです。彼がテストライダーとしてホンダに残りたいかどうかというのは、完全に彼次第ですよ。」

 

Q

「来年のホルヘのクルーチーフに関しては何か情報はありますか?」

アルベルト・プーチ

「現時点ではチームを作り上げようとしているところで、ご想像どおり簡単ではありません。これに関して作業をしていてアイディアはありますが、まだ誰が何をするのかという事に関しては不明確です。もちろんホンダのことを理解している人のほうがいいわけですが、まだ決定していません。」

 

Q

「あなたがダニではなくホルヘを選んだということは、年齢や経験ということではないのだと思います。ホルへに期待するのはなんでしょう?」

アルベルト・プーチ

あくまでこれは私の決定ではなくHRCの決定です。まずこれが1つ目です。ロレンソはMotoGPクラスでは3度タイトルを獲得しています。ですから、彼がホンダのバイクでも素晴らしい結果を残せると考えています。過去そうであったように、彼はそういったレベルで走ろうとするでしょうし、優勝を目指して走るでしょう。ただライダーがバイクにどういった形で適応するかどうかというのは未知数です。時には簡単ですし、時には難しいこともあります。彼がDucatiに適応するのにはかなりの時間がかかったのは事実ですし。ただ一度適応した後は2連勝もしているわけです。彼が速さを発揮する事を期待していますが、それがどの程度か、いつになるのかというのは想像がつきません。ただ彼のポテンシャルと今までのキャリアを考えると、彼はただ適当な順位でレースをするためにホンダに移籍してくるわけではないでしょう。」

 

Q

「マルクも語っていたようにエンジンは強力になりましたが、次に開発の面で集中しているのはどの部分ですか?シャーシなのかバイクの挙動なのか、チャンピオンシップを戦う上でどのような方向性でマシンを開発しようと思っているのでしょうか?」

桒田 哲宏

「まずエンジンに関しては確かに改善していますが、MotoGPではナンバーワンのエンジンにはなっていないと思います。ですから、来年は引き続きエンジン性能をナンバーワンにするという開発を続けていきます。シャーシに関してはいかにタイヤをマネジメントしていくかということを考えたシャーシを開発する必要があります。この部分も来年に向けて集中していく必要があるでしょうね。」

 

Q

「過去にホンダは全てのライダー向けのバイクという開発をしていたと思いますが、近年はマルクにのみ集中したバイクを作っていると思います。今まではストーナー、そしてマルク向けにバイクを作ってきました。今後はライディングスタイルが大きく異なる2人のライダーを迎えるにあたり、マルクに合わせたバイクを作るのか、1台はマルク、1台はホルへに合わせたバイクを開発するのでしょうか?」

桒田 哲宏

現時点でもマルクとダニに合わせたバイクを作っています。マルク専用というわけではありません。ですから今後の開発方針も同じで2人に向けたバイクを開発します。現時点ではホルへがどういったバイクを望んでいるのかはわかりません。もちろんホルへの要求にも応えてマシンを開発していきます。マルクも当然ながら色々とリクエストを持っているわけですから、開発側としては非常にチャレンジングな状況だと思います。いずれにせよ、今までと同様に2人に向けた開発を進めていきます。」

 

Q

「Ducatiがロレンソのようなライダーを手放した事は驚きですか?またマルケスには新しいチームメイトに何を望むか聞いたりしたのでしょうか?」

アルベルト・プーチ

「Ducatiが何を考えていたとか、そんな事は特に考慮していません。いいライダーがそこにいた。だから確保した。それだけです。Ducatiが何を考えていたのか知りませんし、正直そんな事は全く気にしていません。そこにチャンスがあったからものにした。それだけです。マルクに関してはもちろんホンダの重要なライダーですから、彼にはこの事は事前に伝えました。そして彼の返答はまさに我々が予想していたとおりのものでした。

 

Q

「ライダーのライディングテクニックなどはトラック上でよく眺めていると思うのですが、ダニは非常にスムーズにライディングをし、ホルヘもまたスムーズにライディングをするわけです。両者のライディングスタイルは似ているのですか?何か似ている点があるのでしょうか?」

桒田 哲宏

「ライディングスタイルというのは非常に難しいもので、もちろんダニとマルクのスタイルは大きく異なります。ですからマシン開発の観点では大きく異なる方向性を持ったライダーがいるということなんです。そしてこれは我々にとっては非常に良いことなんです。マルクとダニにとって素晴らしいバイクを作ることが出来れば、ホンダの技術的なポテンシャルが高いということになります。ですから来年に関しても同様にマルクとホルヘに高いレベルのマシンを提供したいと思っています。」

アルベルト・プーチ

「ライディングスタイルは確かに異なります。ダニとロレンソは両者ともにスムーズですが、ロレンソはフィーリングが良い時はより高いスピードでコーナーに進入します。そしてダニは旋回、そしてバイクを早めに起こす事が上手です。ただ、結局のところ2人共にスムーズなライディングをしています。桒田さんが言うように2つの違う方向性のマシンを開発するというのは興味深いことですし、ホンダのエンジニアの観点からすると、彼らは多くを学ぶ事が出来るわけで、異なる方向性を見ていくことになります。エンジニアはライダーから学ぶ事が出来ますから、ロレンソがホンダに何をもたらしてくれるのか楽しみですね。

 

Q

「カル・クラッチローのシーズンについてはどう思いますか?また彼の来年の役割についてはどのように考えているのでしょうか?」

アルベルト・プーチ

「彼は良い仕事をしていると思います。唯一の問題は転倒が多いということでしょう。これによってチャンピオンシップの順位も悪化してしまっています。ただそのポテンシャルとスピードという意味では、彼は素晴らしいパフォーマンスを発揮していると思います。それに彼は開発の面でも大きく助けになってくれています。来年も同様の仕事を彼には期待しています。」

桒田 哲宏

「同感です。カルはバイクの開発が得意だと思いますし、素晴らしいフィードバックを提供してくれています。ですから、このスタイルを続けていきたいと思っています。こういう体勢が来年に向けて強力なマシンを開発することに繋がると考えています。」

 

Q

「ダニからホルへの選手交代は企業としての決断だとプーチが話していました。この決断をいつしたのか?また、ダニにはいつ彼がホンダで来年走る事はないという話をしたのでしょうか?」

桒田 哲宏

「ダニがHRCを去るという決断をした後に、我々は彼を尊敬していますので彼の決断を受け入れました。そしてその時点で彼の代わりとなるライダー候補を探し始めたんです。」

 

Q

「来年は2人の経験豊富なライダーを抱えることとなり、1名は30歳を超えておりMotoGPで豊富な経験を持っています。そして来年はまたMarc VDSを失うことでライダーが2名少なくなるわけです。KTMは新しいライダーの育成プログラムを持っていますが、こういった若いライダーの発掘に関してはどのようなプログラムを考えているのでしょうか?サテライトチームの2名のライダーがいなくなるということに関してはどのように考えているのでしょう?」

アルベルト・プーチ

「Marc VDSに起きたことは残念ですが、我々がどうにか出来ることではありません。長年に渡ってチームをサポートしてきましたが、こういった事が起きてしまった以上どうしようもありません。ライダーの育成プログラムに関してはアジアに多額の投資をしていますが、ヨーロッパに関してはこれから進めていく必要があります。KTMは非常にアクティブですが、ホンダはバイクの開発を続け最高のバイクを提供出来るようにしたいと思っていますし、そうしたバイクを見てライダー本人がホンダで走りたいか別のメーカーで走りたいかを決定することになるでしょう。

 

Q

「来年2台バイクが少なくなるということに関して懸念はあるのでしょうか?またより多くのバイクをグリッド上に並べるというプランはあるのですか?」

桒田 哲宏

現時点では2つシートがなくなることに関しては、あまり問題だとは考えていません。

 

Q

「MotoGPの中でホンダは最高のバイクですか?そうでなければどこのバイクが最高のバイクなのでしょう?」

桒田 哲宏

もちろんホンダが最高のバイクだと言いたいですが、それはシーズンが終わってから答えることが出来るでしょう。現時点では特に何か言えることはありません。」

(Photo courtesy of michelin)