Team SUZUKI ECSTAR(チーム・スズキ・エクスター)のテストライダーのシルヴァン・ギュントーリが、市販車のGSX-R1000RとMotoGPバイクGSX-RRを様々な点で比較している。MotoGPバイクは完全に別な乗り物だとは言え、可変バルブタイミング機構(Suzuki Racing Variable Valve Timing)など、ダイレクトにMotoGPの技術を感じることが出来るバイクは、やはり最新のリッタースポーツだと言えよう。

ギュントーリがGSX-R1000RとMotoGPバイクGSX-RRの違いを語る

シルヴァン・ギュントーリ

MotoGPバイクとストリートバイクの違いについて解説しましょう。以前ドニントンパークをGSX-R1000Rで走行した際はMotoGPバイクの10秒落ちというタイムでした。バイクの違いを考えると10秒の違いは小さいものの、トラックタイムとして考えると大きな差です。では、一体どんな違いがあるのでしょうか?」

シャーシの違い MotoGPバイクのほうが車体が長い

「まずはシャーシが異なります。市販車とMotoGPバイクではアルミニウムを使用しているのは共通ながら、ジオメトリーは当然異なります。市販車は一般道を走行しても快適に作られています。」

「MotoGPバイクはトラック専用ですので、ブレーキング時により安定するように作られていますし、車体も長いんです。スイングアームも長くなっており、強大なパワーでもウイリーしにくくなっています。

「ドニントンでプッシュして走行した際、GSX-R1000Rは2次旋回が素晴らしく実によく曲がります。これはつまり市販車は一般公道などより低い速度域でよく曲がるように出来ているということなんです。対してレースバイクの車体は長く、フィーリングも硬いんです。」

エンジン MotoGPバイクは4速〜6速でぐんぐん加速する

GSX-R1000Rは200馬力ありますが、MotoGPはそれを遥かに凌ぐ馬力があります。正確な馬力はお伝え出来ませんけどね。ドニントンのような狭いトラックでは4速までしか使用しません。200馬力というのはもの凄い馬力なんですよ。」

MotoGPバイクがその性能をフルに発揮出来るのはセパンなどのトラックで、4速、5速、6速であっても、340km/hを超える速度に到達する勢いで加速していきます。対してGSX-R1000Rなどの市販車は4速以降は徐々にパワーが細くなっていくのが普通です。ドニントンのような小さいトラックにおける差は小さく、ストレートスピードなどを考えても驚くほどの差はないと言えるでしょう。」

GSX-R1000RはMotoGPバイクと同様の可変バルブタイミング機構を使用しています。この技術のメリットは低回転から高回転までフラットにトルクが出ていくことで、これによってシフトダウンの回数を減らして、高いギアのまま低回転からエンジンを使うことが出来るんです。公道でも助かりますが、トラック走行であっても低速から十分なトラクションを得ることが出来ます。」

ブレーキ MotoGPバイクの最大減速Gは2Gに達する

「市販車はスティールブレーキにABSが装備されています。ABSは公道で走行するには最高のシステムと言えるでしょう。ABS付きのバイクでトラックを限界で走行すると、ABSが作動するのが感じ取れますよね。」

「MotoGPバイクはカーボンブレーキですからその性質は異なります。GSX-R1000Rで走行した時の最大の減速Gは1.5Gでしたが、これはかなりの減速Gです。平均的な減速Gは1Gでした。MotoGPバイクの場合は平均が1.5G、最大の減速Gは2Gです。これはジオメトリーによるもの、そしてカーボンブレーキの制動力によるものです。」

ギアボックス 高出力にはシームレスギアボックスが必要

「GSX-R1000Rにはクイックシフターとオートブリッパーがついています。クイックシフターは加速中にスロットルを100%開けた状態でシフトアップを可能にします。同様にオートブリッパーはシフトダウン時にクラッチを触る必要がなくシフトダウンが可能なものです。」

「MotoGPバイクはシームレスギアボックスを搭載しており、更にスムーズにギアチェンジが可能となります。個人的な意見ですが、MotoGPバイクほどの馬力があるバイクにシームレスギアボックスは必要です。馬力が大きいとシフトチェンジ時のシフトショックも大きく、シームレスギアボックスはこれをスムーズにしてくれるんです。」

トラコン / パワーコントロール MotoGPバイクはオーダーメイド

MotoGPバイクの場合、こうしたシステムは100%オーダーメイドで作り上げることが可能で、ライダー、トラック、コンディションによって調整が可能です。MotoGPバイクの場合は非常に複雑で精巧に変更することが可能なんです。」

「GSX-R1000Rの場合はプリセットでモードが存在し、トラクションコントロールも10段階で調整が可能、ウイリーコントロールも含まれています。10段階で10が一番強く働き、0はトラクションコントロールOFFとなります。」

私がトラック走行する場合は1で走行します。これだとある程度ホイールスピンも起きますし、ウイリーも抑えることが可能なんです。ワイルドなフィーリングでバイクを操ることが出来ると言えるでしょうね。」

「4、5も試してみましたが、私にとっては効きすぎという印象でした。しかしトラック走行をする中で、速く走行したいと練習してる人にとっては、セーフティーネットになるでしょう。7〜10に関しては公道でコンディションがよくない時に最適だと思います。私も公道では8に設定して安全に乗っています。」

タイヤ 絶大なパフォーマンスを発揮

タイヤは最も大きな違いの部分でしょう。GSX-R1000RにはブリヂストンR11が装着されており、これ自体とても良いタイヤです。このタイヤはトラック専用に近いので、公道でコンディションがよくない時にはあまり向かないタイヤです。」

「MotoGPの場合は完全専用設計のスリックタイヤで、絶大なパフォーマンスを発揮します。GSX-R1000RにMotoGP用タイヤを履いて走行したら非常に興味深いと思っているんですがね。」

サスペンション MotoGPバイクはもっと硬い

「ロードバイクのサスペンションは快適です。乗り心地がとても良いのですが、MotoGPバイクの場合は乗車してもほぼ全く姿勢が変わらないほど固いのが特徴です。これは強烈にグリップするタイヤに合わせてこうしたセッティングになっているわけです。ですから、市販車でトラックを走行する際はサスペンションの柔らかさを特に感じますね。」

車重 市販車との差は約45kg

MotoGPバイクの場合は最低重量が157kgと定められています。GSX-R1000Rの場合は200kg以上の車重ですから、およそ45kgの差があるわけです。MotoGPバイクの最低重量は燃料が空の状態の話です。市販車はMotoGPバイクと比較すると慣性の影響を随所で感じます。MotoGPバイクの場合はまさに身軽な獣といった走りですね。」

ライディングポジション MotoGPバイクのポジションは余裕あり

多くの人がMotoGPバイクはコンパクトだと思っていますが、実際の車体は長く、ライディングポジションには余裕があります。私は180cm弱の身長なので、GSX-R1000Rにまたがって伏せるとリアシート周りがかなり窮屈です。でもMotoGPバイクの場合はさらに後ろに下がれる余裕があるんです。」

「もう1つ大きな違いはハンドルバーの位置です。市販車はバーが近くなっています。また私を含めて多くのGPライダーのハンドルバーはもっと開いています。バーが開いていたほうが外乱に対してしっかりと耐えることが可能になるんですよ。ですから、私のGSX-R1000Rもそれに合わせてハンドルバーは開き目にしてあるんです。」

一昔前のレース用バイクは前下がりの姿勢であることが多かったと思います。しかしMotoGPバイクはもはやこういったポジションではありません。前下がりの姿勢だとブレーキングアビリティーが低くなってしまうんです。」

MotoGPバイクのようにフロントがある程度高く、ライダーの乗車位置も高いと、ブレーキングでしっかりとフロント荷重が載り、制動距離を短くすることが可能です。GSX-R1000Rの場合もそれにならっておりポジションは快適で、トラックでもしっかりと制動することが可能です。」

「ステップ位置はGSX-R1000Rのほうが少し下についています。MotoGPバイクのほうがステップとシートの距離が近いわけですが、それ以外は非常に似通っていると思います。」

(Photo courtesy of michelin)