シルヴァン・ギュントーリが徹底解説する「足出し走法」4つのメリット

シルヴァン・ギュントーリ

Team SUZUKI ECSTAR(チーム・スズキ・エクスター)のテストライダーであるシルヴァン・ギュントーリは、バレンティーノ・ロッシが始めた足出し走法について、現役のMotoGPテストライダーとしての視点から、どのようなメリットがあるのかを詳しく解説している。一般ライダーがサーキット走行で活かせるテクニックではなさそうだが、知識として知っているといないとでは大きな違いと言えるだろう。

足出し走法はバイク、タイヤ、ブレーキの進化によって必要になった

シルヴァン・ギュントーリ

なぜMotoGPライダー達はブレーキング時に足を出すのでしょうか?これには様々な説や話がありますが、今日私がその真実をお話します。

「バイクのタイヤ、ブレーキは常に進化を続けており、ライダーは常にこの進化に対応しようとしてきました。そして現在一般的になった足出し走法は、バイクとタイヤ、ブレーキの性能の進化による結果なんです。」

足出し走法(Doctor’s Dangle)はバレンティーノ・ロッシが始めた

「内側の足がステップから離れる理由の1つには、減速時のGがあまりにも大きく足が自然とステップから浮いてしまうということもあります。これはライダーであれば誰もが経験する問題ですが、実際に足をステップから意図的に離すことによるメリットに一番最初に気がついたのはバレンティーノ・ロッシです。

「バレンティーノ・ロッシが足出し走法を始めてから、皆が注目しました。彼の足は長いですし、スーツがイエローなので目立ったんです。それを見たライダー達は”一体こいつは何をやっているんだ?”と考えながら、彼の真似を始めたんですよ。ですから、このテクニックは”Doctor’s Dangle”と呼ばれるようになったんです。」
シルヴァン・ギュントーリ

内側の足を出すことで多くの変化が起きる

「MotoGPバイクはカーボンブレーキを使用しており、バイク、タイヤの性能が高いことから、ブレーキング性能は非常に高いんです。当然ながらブレーキング時の姿勢は全く快適とは言えず、ボディーポジションはフロントに覆いかぶさるような形となり、腕に凄まじい荷重がかかります。足も激しいGでステップから浮き上がり、ライダーはなんとかバイクにしがみついているような状況なんです。」

「膝も曲がっていますし、激しい減速Gで体が前方に持って行かれますから、体をバイクの後ろ側に残しておくことがどうしても難しいんです。しかし、こういった状況下で内側の足を投げ出すことで、実に多くの変化が起きます。
シルヴァン・ギュントーリ

内側の足を出すメリットは大きく分けて4つ

重心の中心が下がる

「まず1つ目に起きるのが重心の中心が下がるということです。足を出すことで足が下に移動するのは勿論、太もも、足全体が下側に移動します。これによって重心が下がり、ブレーキング時の安定感とパフォーマンスが向上します。」
 

荷重がリアに移動する

2つ目に、これによってある程度の重量がフロントからリアに移動します。太ももをまっすぐに伸ばすことで、内側の足全体が後ろ側に移動し、体をバイクの後方に移動させることが可能になります。これによってブレーキング時に、より臀部、外側のステップに荷重しやすくなり、さらにブレーキング時の安定感、パフォーマンスが向上します。」
 

体全体で減速Gを受け止めることが可能

3つ目に、内側の足を投げ出すことで、外側の足の太もも、外側のステップを含め、体全体でバイクの減速Gを支えることが可能になります。内側の足を出さない場合だと腕に思い切り減速Gがかかっていた部分を、足でも体をしっかりと支えることが出来るようになるのです。」
 

エアロダイナミクス上のアドバンテージ

「その他にもエアロダイナミクス上のアドバンテージもあります。通常ライダーはストレートでは出来る限り空気抵抗を減らすべく、流線型のラインを保つために伏せて走行しています。ブレーキングの際には強大なMotoGPバイクの減速Gに対抗するため、ライダーは体をパラシュートのように使います。空気抵抗によって体が後ろに押される力が、ブレーキングで力が入る腕から減速Gを軽減することになります。

「そしてこの空気抵抗は内側に投げ出した足にも有効で、この足がまるで空気中の錨のように働くんです。重心よりも低い位置にある足に空気抵抗がかかることで、ライダーの体をバイクの後ろ側に留めておこうとする力が働き、さらにバイクの車高を下げる力が働きます。
シルヴァン・ギュントーリ
「足にかかる空気抵抗については本当に些細なことかもしれません。しかし極限の世界であるMotoGPではあらゆる些細なことの積み重ねが大きな違いを生み出します。そしてトップライダー達がすることに無駄はありません。ライダー達がトラック上で使用しているテクニック、外から見ると何をしているのか、何の意味があるのかわからないようなことすべてが、100分の1秒を削るための努力の結果なんです。

一般ライダーのサーキット走行におけるメリットは小さい

「足出し走法のデメリットは特に思いつきません。あるとしたら、ブーツのスポンサーが年間に供給するブーツの量がどうしても増えてしまうことくらいではないでしょうか(笑)」

「一般ライダーがサーキット走行でこのテクニックを有効に使えるか?使えはしますが、一般ライダーレベルではそこで得られるメリットは小さいでしょう。地元のサーキットのコースレコードを塗り替えようとか、限界で走行しているならば話は別かもしれませんけどね。」

(Photo courtesy of michelin)