2018年シーズン開幕前に、今シーズンのMotoGPの見どころを解説しています。その7としては、2017年に惨憺たるシーズンを送ったスズキの2018年シーズンについてです。

優遇処置が適用されるスズキは、どこまでレベルを上げることが出来るのか?

スズキは2011年の最終戦が行われた11月でMotoGPから撤退し、2015年にMotoGPに復帰しました。マシン開発の力を見込まれたアレイシ・エスパルガロ選手、ルーキーながらそのスピードに注目が集まっていたマーべリック・ビニャーレス選手という布陣で、2015年にはエスパルガロ選手が年間11位、ビニャーレス選手は12位でシーズンを終えました。続く2016年にはエンジンパワーなどの課題が徐々に解消され、ビニャーレス選手のライディングとマシン特性が合っていたことなどから、最終的にはビニャーレス選手がスズキのMotoGP復帰後の初勝利をイギリスGPで獲得。それ以外にもフランスGP、日本GP、オーストラリアGPで3位表彰台を獲得しました。

2017年はビニャーレス選手がモビスターヤマハへの移籍を選んだことからライダーラインナップが大きく変わり、「これから成長していくルーキー枠」としてMoto2でスピードを発揮していたアレックス・リンス選手、そして「マシン開発をしつつ、優勝も狙えるスピードを持つ選手」ということで、元Ducatiのアンドレア・イアンノーネ選手という布陣となりました。しかし2017年シーズンが始まると、リンス選手がバレンシアテスト2日目で転倒して怪我を負い、スズキとは大きく異なるDucatiから移籍してきたばかりのアンドレア・イアンノーネ選手に、マシン開発が委ねられます。また、リンス選手はシーズン開幕後もアルゼンチンGPの前に右足首を骨折、またアメリカGPでは左手首を骨折したことで、イアンノーネ選手は慣れないバイクの開発をしつつ、さらに結果も厳しく求められるという状態になります。

しかし、2017年開幕前にスズキはエンジンの方向性を間違えた状態でシーズンに挑む形となります。これは2016年中に課題になっていたトラクション不足を解消するために開発されたエンジンで、よりスムーズな特性になっていたとされます。これはヘレスで行われたプライベートテストの中でアンドレア・イアンノーネ選手がテストを行っていたもので、その後のセパンテストでも同様にイアンノーネ選手が気に入ったことから、このエンジンで2017年を戦うというゴーサインが出されます。しかしシーズンが開幕すると、このエンジンではコーナーエントリー、コーナリングにおいて問題が出ることが明らかになりますが、レギュレーション上はシーズン中のエンジン開発は凍結されていますので、この方向性を間違えてしまったエンジンのままスズキは苦難のレースを続けることになります。

イアンノーネ選手は開幕戦カタールこそ良い位置で走行したものの転倒、アルゼンチンGPで16位、アメリカGPで7位、フランスGP、イタリアGPで10位、カタルーニャGPで16位など振るわず、チェコGPでは19位となります。リンス選手もオランダGPで17位、ドイツGPで21位など結果が中々出ない状況が続きます。こうしたシーズンの中でドイツGPの視察に訪れたケヴィン・シュワンツは、イアンノーネ選手の働き方を痛烈に批判。「イアンノーネが本気でやっているとは思えない」「ヤツはカートでもやってればいいんだ」といった発言をしていました。

イアンノーネ選手は、明らかに今までのDucatiとのマシン特性の違いに苦しんでおり、「ハードブレーキングをしてリーンをしようとするといつも転倒してしまう」と語っていました。そのため、シーズン中盤には「レースを終えたいんです。ですから自分の能力よりも0.5秒遅く走っているんです。」という発言もしています。しかしこうした走りは、現役時代は常に全力、優勝出来る位置で走っていても限界でプッシュせずにはいられない走りだったシュワンツ御大からすると、十分な報酬をもらっていて、ファクトリーからのサポートも万全であるにも関わらず、限界までプッシュしてバイクの問題をねじ伏せてでも走ろうという姿勢が感じられないということで、「本気で走っていない」というように見えたのでしょう。

輝かしい2016年とは対象的に、惨憺たる結果となったスズキの2017年でしたが、スズキのダヴィデ・ブリビオは、この長く辛いシーズンの中で「現行のパッケージのパーツ、セッティングなどを詰めることが出来た」と語ります。実際にリンス、イアンノーネ両選手の走りも、アラゴンで行ったテストの後から上向き、日本GPではリンス選手が5位、イアンノーネ選手が4位を獲得します。その後も2人は安定した結果を残し、イアンノーネ選手が17位、リンス選手がリタイアとなったマレーシアGP以外は良い形でシーズンを終えます。

2018年に関しては2017年に表彰台を一度も獲得出来なかったということで、スズキはコンセッション(優遇処置)を受けることとなり、これによってシーズン中のエンジン開発の自由、テスト回数などに関して優遇されます。特に2017年はエンジン開発の方向性を誤ったことが苦戦の大きな原因の1つでもあったわけですから、このエンジン開発の自由のメリットは大きいと言えるでしょう。また2017年はリンス選手がシーズン開幕前に怪我をしていたこと、またシーズン中も怪我を繰り返していたことなどから、バイクの開発が思うように進まなかったという問題も大きかったはずです。


2018年は両ライダーが揃って開発を行えること、2人のライダーともにGSX-RRで走る2年目のシーズンということで、2017年の経験、データなどを有効活用出来ることなどが予想されます。ブリビオは2017年に「この難しい1年間に関しては、将来への投資だったと考えたい」と述べていますが、厳しい言い方をすると、新体制もこれで2年目となり優遇処置もある中で、2018年にスズキが結果を残せないということはあってはならないと言えるでしょう。

(Photo courtesy of michelin)