ポル・エスパルガロのレプソルホンダ加入の噂を巡って、その信憑性を含め様々な話が出ている。既に契約を交わしているが発表はされてないという見方が多いが、その背景について、最も順当なシナリオ、最も波乱を呼ぶシナリオなどについて検証する。


マルク以外に表彰台争い出来る選手がいない

レプソルホンダの事情を考えると、絶対王者のマルク・マルケスと共に勝ち続けてきた経緯があり、マルクと2021年から2024年まで前代未聞の4年契約を結んだことは記憶に新しい。しかし、コンストラクターズタイトル、チームタイトルを獲得するには、マルク以外にもポイントを安定して稼げるライダーがいたほうが良いことは間違いなく、マルクという圧倒的な速さのライダーが加入したことで、レプソルホンダ陣営の中で、マルク以外のライダーに対する要求水準が上がったことは想像に難くない。

マルク加入以前から「レプソル・ホンダの顔」として活躍してきたダニ・ペドロサは、ミシュランタイヤでは体重が軽いためタイヤに熱を与え、十分なグリップを引き出すのに苦労した末に2018年に引退。2019年から2年契約で参戦したホルへ・ロレンソは、スムーズさが身の上のライディングを改造し、Ducatiに適合したことでホンダRC213Vも乗りこなすことが期待されたが、最後まで苦戦。怪我にも悩まされ最後まで戦闘力を発揮出来ずに2020年までの契約を破棄して2019年末に引退した。

基本的にファクトリーライダーの契約期間は2年間であるため、レプソルホンダが2020年シーズンにロレンソの穴を埋めるライダーを探した時、有力ライダー達は漏れなくいずれかのファクトリーチームでシーズン1年目を終えたところで、当時候補とされたのがKTMの契約を途中で破棄したヨハン・ザルコ、LCRからファクトリーチーム昇格の可能性があったカル・クラッチローで、日本のファンは中上の可能性は?とやきもきしたものだ。

Moto2クラスで2019年にタイトルを獲得したアレックス・マルケスは本来はホンダサテライトチームであるLCRホンダからのデビューが妥当だったわけだが、他にフリーのライダーがいないこと、将来性、マルクとの関係性なども加味した上で、レプソル陣営の中でアレックス・マルケスの起用が決まったのだろう。アレックス・マルケスは元々レプソル・ホンダにとって第一候補だったわけではなく、出来ることなら安定的に表彰台争いの可能性がある選手を確保したいという思惑は、チームとして常に持っていたはずだ。

アレックス・マルケス

各ライダーの契約更新スパンの問題

前述したようにファクトリーチームの契約期間は基本的に2年間であり、各ファクトリーチームは2021年〜2022年の契約を続々と発表している。既にラインナップが決まっているファクトリーチームはアレックス・リンス、ジョアン・ミルと契約を延長したTeam SUZUKI ECSTAR(チーム・スズキ・エクスター)、マーべリック・ビニャーレス、ファビオ・クアルタラロを起用するモンスターエナジー・ヤマハMotoGPだ。

Ducatiはジャック・ミラーと2022年まで契約延長のオプション付きで2021年の契約を結び、ホンダはマルク・マルケスと2024年までの4年契約を結んでいる。Ducatiはもう1人のライダーは恐らくアンドレア・ドヴィツィオーゾとなり、アプリリアはアレイシ・エスパルガロと契約更新間近、資格停止が解除されればアンドレア・イアンノーネとの契約更新の意向を公表している。KTMはスポーティングディレクターのピット・バイラーが、ポル・エスパルガロ、ブラッド・ビンダー両名を継続して起用する意向を明らかにしていた。

レプソル・ホンダはマルク・マルケス以外の選手との契約発表を行っていないと明らかにしているが、現時点でMotoGPクラスで来年のチームが決まっていないファクトリーチームの選手となると、アンドレア・ドヴィツィオーゾ、ダニーロ・ペトルッチ、ポル・エスパルガロ、ブラッド・ビンダー、バレンティーノ・ロッシ、アレイシ・エスパルガロ、アンドレア・イアンノーネ、アレックス・マルケスしかいない。

コロナウイルスの発生がなく2020年シーズンが開幕し、7戦ほど消化した状態でアレックス・マルケスがトップ10を安定して獲得出来ているようなら、レプソル・ホンダも頭を悩ませずに契約更新をしたはずだ。しかし、現状は各チームが2019年の成績を元に契約を更新、新規契約を結ぶ以外にないわけだ。

レプソルホンダは2020年の成績を見ずにアレックス・マルケスと契約更新をすることも可能だが、1年契約だと、2021年末でフリーになる有力選手を見つけにくく、再びライダー探しに難航する可能性がある。2年契約をした場合では、アレックス・マルケスが2020年から2021年にかけて惨憺たる成績だった場合は、人選ミスを批難されることは間違いない。

そう考えていくと、2年契約もしくは2022年まで延長可能なオプション付きで1年契約をしても良さそうな選手、且つホンダに移籍の可能性がありそうな選手となると、ポル・エスパルガロが最有力だというのも頷ける。

ポル・エスパルガロ

ポル・エスパルガロはRC213Vを乗りこなせるのか?

では、アレックス・マルケスに代わりレプソル・ホンダに加入すると言われるポル・エスパルガロならばRC213Vを乗りこなし、表彰台争いが出来るのか?

こればかりは実際にレース結果を見てみないとわからない問題だが、2014年からテック3ヤマハでMotoGPデビューしたポル・エスパルガロは、元々Moto2クラスではアグレッシブな走りが特徴の選手なだけに、RC213Vにも適応出来る可能性は高い。

ポル・エスパルガロはスムーズさが求められるヤマハのYZR-M1では、ライディングスタイルの適合に苦戦。自分の本来のスタイルで走ろうとするとタイムが出ず苦戦していた。KTMのプロジェクトはまだまだ始まったばかりとは言え、マシンの性格としてはアグレッシブなライディングが求められ、バイクをプッシュすればプッシュするほどにタイムが出るタイムのバイクだ。

ホルへ・ロレンソに良く似たスムーズなライディングスタイルと言われるヨハン・ザルコはKTMで苦戦に苦戦を重ね、契約を途中で破棄してDucatiに移籍している。ホンダのRC213Vもプッシュしなければフロントの接地感が出てこないバイクと言われ、フロントの絶対的な安心感を求めるホルへ・ロレンソは、これで最後の最後まで苦戦していた。

バイクのレイアウトを考えても、KTMのRC16もRC213V同様のV型4気筒エンジンを採用、エキゾーストレイアウトもRC213Vに良く似た作りで、スチールトレリスフレーム、WPサスペンションなどMotoGPバイクとして唯一の作りはあれど、バイクの性格は似ていると予想される。

ポル・エスパルガロ自身も、KTMから移籍する可能性があるとしたら、表彰台やチャンピオンシップ争いの可能性があるメーカー/チームのみとしており、具体的にはレプソルホンダ、もしくはDucatiファクトリーの名前を挙げている。

アレックス・マルケスはどうなるのか

アレックス・マルケスはRC213Vで未だ1戦もしておらず、その速さは未知数だ。Moto2時代の走りから考えると、マルク・マルケスとライバル関係にあったポル・エスパルガロとは異なり、アレックス・マルケスは、ヨハン・ザルコ、フランコ・モルビデッリ、フランセスコ・バグナイアといったMoto2チャンピオン達がいなくなったMoto2クラスで、ブラッド・ビンダーに辛勝してタイトルを獲得した成績の持ち主であるため、前評判はけして高くない。

MotoGPクラスに加入して大化けしたファビオ・クアルタラロのような選手もいるが、MotoGPクラスの中でもライダーフレンドリーと言われるM1と、ダニ・ペドロサ、カル・クラッチロー、ホルへ・ロレンソのようなベテランでも手を焼いたRC213Vとでは、成績の出しやすさは異なるはずだ。

ポル・エスパルガロがレプソル・ホンダ入りするとなると、アレックス・マルケスの行き先は必然的にLCRホンダになりそうで、中上もしくは引退が噂されるカル・クラッチローとシートを争うことになる。

最も順当なシナリオと、最も波乱を呼ぶシナリオ

色々な可能性を考えた上で最も順当なシナリオは、アレックス・マルケスがレプソル・ホンダと1年、もしくは2年契約を更新。ポル・エスパルガロもKTMと契約を更新するというものだ。レプソルホンダにとっては、アレックス・マルケスに引き続き投資を続けることが出来るし、チーム内に不要な波風を立てずに済む。

最も波乱を呼ぶシナリオとしては、噂通りにレプソル・ホンダがポル・エスパルガロを起用。アレックス・マルケス、カル・クラッチロー、中上 貴晶がLCRのシートを争うというものだ。こうなるとアレックス・マルケスは、2020年シーズンに実力で判断される前にチームを追い出される形となり、開幕前からファクトリーシートを失うことを知った上での参戦となる。

弟との仲が非常に良いマルク・マルケスとしても、レプソル・ホンダと4年契約を結んでいるとは言え、開幕前に弟が契約更新のチャンスすら与えられずにチームを追われるのを見るのは、けして愉快なものではないだろう。
ポル・エスパルガロ
KTM陣営としても開発をリードしたポル・エスパルガロを失い、将来的に期待を寄せていたホルヘ・マルティンもDucati(Pramac)に奪われたことになるため、ライダー構成を最初から考え直す必要に迫られる。ブラッド・ビンダーとは契約を更新するにしても、ポル・エスパルガロの穴をミゲル・オリヴェイラ、イケル・レクオーナが埋められるとも思えない。
ブラッド・ビンダーミゲル・オリヴェイラ
MotoGPの2020年シーズン開幕は7月19日が予定されているが、2020年シーズンはコロナショックに加えて、開幕前にライダーの動きを巡って一波乱ありそうな予感だ。

(Photo courtesy of michelin, HRC)