マーべリック・ビニャーレスのヤマハとの契約即時解消により、2021年、2022年のヤマハのMotoGP参戦体制について状況が不明確なままになっている。
具体的には2021年に急遽空席となったファクトリーシートをどうするのか?今シーズン、そして来シーズンのモンスターエナジーヤマハMotoGP、セパン・レーシング・チームそれぞれのシートをどうしていくのか?という問題だ。
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バレンティーノ・ロッシが2021年限りで引退を表明していることからも、2022年についてはヤマハ全体で2つの空席が出来ることになる。なお、ペトロナス・ヤマハ・SRTについては、メインスポンサーのペトロナスが2021年限りでスポンサーを離れることから、来季はセパン・レーシング・チームとしてMotoGPクラスのみに参戦するなど、いろいろな動きが慌ただしい状況だ。
モンスターエナジー・ヤマハMotoGP 2021年の残りをどう戦うのか
カル・クラッチローを起用し続ける場合
モンスターエナジー・ヤマハMotoGPについては、ヤマハがマーべリック・ビニャーレスとの契約を即時解消したことにより、2022年だけでなく、2021年の体制についても検討が必要だ。2021年は残り7戦が予定されており、イギリス戦についてはカル・クラッチローが参戦することが決定している。
選択肢としてカル・クラッチローが残り7戦すべてを走りきることもあり得るが、彼の本来の仕事は2022年型の開発だ。今年ヤマハのメインライバルであるDucatiは、複数台で参戦、ミケーレ・ピッロを要し高い開発力を有する。このDucatiに対抗するには、カル・クラッチローはマーべリック・ビニャーレスが抜けた穴を埋めるのではなく、開発に専念したいところだ。
モルビデッリを早めにファクトリーチームに加入させる場合
フランコ・モルビデッリが来年ファクトリーチームに昇格するのは、ある意味公然の事実となっているが、グランプリレギュレーション(※2021 FIM GrandPrix World Championship Regulations)上は、フランコ・モルビデッリをマーべリック・ビニャーレスの代わりに2021年に参戦させることは可能なように解釈出来る。
しかし、この場合フランコ・モルビデッリはマーべリック・ビニャーレスの代わりとして、ビニャーレスが使用してきたパーツ、各種制限(※エンジン使用基数、テストで消化した日数)などについても、そのまま引き継ぐ形となるとレギュレーションに明示されている。
つまり、マーべリック・ビニャーレスがエンジンブローさせかけたエンジンも含めて、フランコ・モルビデッリが使用したエンジンという解釈となり、マーべリック・ビニャーレスが開封していないエンジンが、残りのシーズンで使用可能なエンジン数となり、マーべリック・ビニャーレスのテストした日数がフランコ・モルビデッリが消化したテスト日数となる。
なお、フランコ・モルビデッリは型落ちマシンを使用しているわけだが、この部分についてもマーべリック・ビニャーレスの使用枠をそのまま引き継ぐ形となるため、もしフランコ・モルビデッリが2021年残りにファクトリーチームから参戦するとなった場合、彼が使用するバイク、エンジン含めて2021年型のファクトリーバイク、エンジンとなる。
フランコ・モルビデッリを1年早くファクトリーチームに迎えるのは、ライダー、チーム双方にとってメリットが大きいが、そうなるとペトロナス・ヤマハ・SRTはフランコ・モルビデッリを早期に失うことになり、彼に代わるライダーを年内に確保する必要がある。
バレンティーノ・ロッシがファクトリーチームで参戦する場合
ファンにとっては理想的なバレンティーノ・ロッシの引退シーンとなるが、可能性としてバレンティーノ・ロッシがファクトリーチームで参戦する可能性も、一応ゼロではない。ただし、来年のライダーになることが確実視されているフランコ・モルビデッリを1年早くファクトリーチームに引き上げるメリットに比べると、ヤマハがロッシをファクトリーチームで再び走らせるメリットは残念ながらほとんどない。
ロッシはペトロナス・ヤマハ・SRTで最新型のファクトリーバイクを使用しているため、フランコ・モルビデッリよりはバイクの習熟に時間を必要としないだろうが、逆に考えると現在の成績を大幅に上回る結果を残せる可能性もあまりないわけだ。
なお、バレンティーノ・ロッシ、フランコ・モルビデッリいずれにしても、今年はマレーシア国営の石油・ガス企業であるペトロナスのスポンサーを受けて走っている選手であり、その選手が日本のENEOS(※旧新日本石油株式会社)もスポンサーを務めるモンスターエナジーMotoGPチームに容易に移籍出来るかどうかは疑問としては残る。
ペトロナス・ヤマハ・SRTの課題
ファクトリーチームの意向によっては2021年にライダーが不足
膝の怪我によって戦線離脱しているフランコ・モルビデッリに変わって、カル・クラッチローが今まで参戦しており、イギリス戦ではジェイク・ディクソンが代役参戦する。しかし2021年シーズンについては、ペトロナス・ヤマハ・SRTライダーのいずれかがファクトリーチームで2021年の残りのレースで参戦するとなった場合、ペトロナス・ヤマハ・SRTのライダーが1名不足することになる。
2022年のライダーは一体誰になるのか?
セパン・レーシング・チームとして迎える2022年のライダーラインナップについては、マーべリック・ビニャーレスの一件がある前から諸説出てきたが、バレンティーノ・ロッシが引退、フランコ・モルビデッリが来年ファクトリーチームに昇格するとなると、2名のライダーが不足することになる。
FIM スーパーバイク世界選手権(SBK)でチャンピオンシップ争いを展開するトプラック・ラズガトリオグル、ルーキーながら活躍しているギャレット・ガーロフの名前が何度か浮上しているが、トプラック・ラズガトリオグルは既にFIM スーパーバイク世界選手権(SBK)で2023年まで継続参戦する契約を結んでいるため、仮に今年ジョナサン・レイからタイトルを奪ったとしても、2022年にいきなりMotoGPに転向する可能性は低いだろう。ギャレット・ガーロフは何度かMotoGPのワイルドカード参戦を行っているが、目立った速さがあったかというと疑問は残る。
イギリスGPでワイルドカード参戦するジェイク・ディクソンは現在のペトロナス・ヤマハ・SRTのMoto2ライダーであること、今回のイギリスGPの結果いかんでは今後のMotoGP昇格の可能性は捨てきれない。なお、もう1名来年MotoGPに昇格する可能性ありと言われているのが、Moto3クラスに参戦しているダリル・ビンダーだ。
加えて昔はテック3でヤマハサテライトライダーとして戦った実績があるアンドレア・ドヴィツィオーゾの名前も、マーべリック・ビニャーレスとアプリリアが2022年の契約を締結したことから浮上している。
まずはファクトリーチームの動向次第
モンスターエナジーヤマハMotoGPの今後についても、ペトロナス・ヤマハ・SRTの今後についても、イギリスGP以降のモンスターエナジーヤマハMotoGPの動きがどうなるかが大きなヒントとなる。イギリスGP以降もカル・クラッチローの起用を続けるようであれば、2022年の開発をどうするかはさておき、2021年はカル・クラッチローを起用し続ける可能性が高くなる。
逆にイギリスGP以降に現在のペトロナス・ヤマハ・SRTのライダーいずれかを起用する場合、2022年の両チームの姿をある程度考えた上での選択となるはずで、来年の動向も含めてある程度の推測もつくはずだ。
(Photo courtesy of michelin, yamaha-racing)