ジョナサン・レイ(パタ・マクサス・ヤマハ)が、2025年シーズン終了をもってスーパーバイク世界選手権(WorldSBK)でのフル参戦から引退することを正式に発表した。史上最多となる6度のタイトル獲得、最多勝利数、最多表彰台、最多ファステストラップ記録を誇るこの北アイルランド出身のレジェンドが、18年にわたる偉大なキャリアに終止符を打つ。

ホンダ時代:2008年のデビューと5年間の戦い

レイは2008年、WorldSSPでの活躍を経て、Hannspree Ten Kate HondaからポルティマオでWorldSBKにスポット参戦。予選フロントロー、決勝4位という鮮烈な印象を残し、2009年からフル参戦を開始。ホンダCBR1000RRで5シーズン戦い、15勝と42回の表彰台を記録した。

カワサキとの黄金時代:史上最強のチャンピオンへ

2015年、カワサキ・レーシング・チームへ移籍したレイは、移籍初戦となるフィリップアイランドでいきなり優勝。シーズン14勝で初タイトルを獲得し、前人未踏の快進撃をスタートさせた。2016年に9勝、2017年にはタイトル3連覇を達成。さらに2018年、2019年、2020年と6連覇を達成し、カール・フォガティの記録を超える最多タイトル獲得者となった。

通算ではカワサキで104勝、221回の表彰台に立ち、WorldSBKの歴史を塗り替え続けた。2021年以降は勢いに陰りが見え、トプラック・ラズガットリオグル(現ROKiT BMW)やアルヴァロ・バウティスタ(ドゥカティ)にタイトルを奪われたことで、新たな挑戦を求めたレイは2024年にヤマハへ電撃移籍する。

衝撃の移籍:ヤマハでの2年間

2024年、トプラックのBMW移籍に伴い、その後任としてヤマハに加入。ヤマハR1での2年間は困難の連続だったが、2024年アッセンでのウェットポールポジションや、母国ドニントンパークでの初表彰台など意地を見せた。しかし2025年序盤に負った負傷の影響もあり、ヤマハを勝利に導くまでには至らなかった。こうした状況を踏まえ、38歳のレイは今季限りで現役から退く決断を下した。

ジョナサン・レイ

「この日については長い間考えてきましたが、ついにフルタイムでのレース活動を終えること、そして引退することを決断しました。このスポーツは自分にとってすべてでした。北アイルランドでバイクレーサーになる夢を抱いた子ども時代から、WorldSBKで表彰台の頂点に立つまで、すべてが一つの夢のようでした。」

「キャリアを通じて、自分には常に一つの目標しかありませんでした。それは“勝つこと”です。その信念が自分というライダーを作りました。数合わせのためにレースをしていたわけではありません。常にトップを目指して走ってきました。」

「体と心、そして何より本能に耳を傾けたとき、“勝てないのであれば、退く時だ”という声が聞こえました。今も初めてバイクに乗った日と変わらない愛情をこのスポーツに感じています。6回の世界タイトル、100勝以上、そして数々の記録。夢のような成果を得ることができ、本当に誇りに思います。」

「ただ、自分にとって大切なのは記録ではなく、そこに至るまでの仲間との絆と記憶です。素晴らしいチーム、スポンサー、エンジニアたちと仕事ができたことは誇りであり、皆さんが夢を生きさせてくれたことに感謝しています。」

「家族のみんな、母さん、父さん、兄弟たち、初期のキャリアを支えてくれてありがとう。妻のターシュ、そして子どもたちのジェイクとタイラー、常に自分の支えでいてくれてありがとう。ライバルたちへも感謝しています。皆がいたからこそ、自分はもっと強くなれました。」

「そしてファンの皆さん、素晴らしい応援と忠誠心を本当にありがとうございました。良い時も悪い時も支えてくれた皆さんのおかげで、自分は夢のキャリアを築くことができました。フルタイムでのレースからは退きますが、これで終わりではありません。これからも違った形でこのスポーツに関わっていきます。心から感謝しています。本当に素晴らしい旅でした。またパドックで会いましょう。」

ヤマハ・モーター・ヨーロッパ モータースポーツ部門責任者、アンドレア・ドゾーリ

「ジョナサンは極めて才能あるライダーであり、この17年間、量産市販車レースの頂点で数々の偉業を成し遂げてきました。彼が築いた記録は、しばらく誰も追いつけないものになるでしょう。長年にわたって我々の手強いライバルであり、彼と戦うことでヤマハも大きく進化しました。」

「2024年からはチームの一員として共に戦ってきましたが、結果面では期待通りとはいきませんでした。それでもジョナサンは常に誠実で献身的でした。最後の4戦でも全力で挑み、このチャンピオンを再び表彰台に送り出せるよう、我々も全力を尽くします。これまでの努力と情熱に心から感謝し、引退後の人生に幸多きことを祈ります。」