2016年からMotoGPにタイヤを供給しているミシュランタイヤ。このミシュランのMotoGPに関しての10の事実という記事がありましたのでご紹介します。レースの度に、新しいタイヤを1200本も温度管理されたコンテナで輸送するなど、目から鱗の事実が沢山です。
先週のカタールGPの際に、筆者はミシュランのパドックエリアをツアーする機会があり、その中で毎週末のレースウィークエンドでミシュランMotoGPタイヤに関して何が起こっているのかを学ぶ機会があった。
2016年にミシュランは7年間の空白の後に、それまでブリヂストンが担っていたMotoGPへのオフィシャルタイヤサプライヤーとなった。このシーズンはミシュランとライダー達にとって大きな学習の機会となった。ミシュランは彼らが最後に最高峰クラスのタイヤを制作していたころから、7年でどれだけモーターサイクルが進化を遂げたのかという点についてキャッチアップする必要があった。その間ライダー達とチームはミシュランのタイヤの最大の能力を発揮するために取り組み必要があった。ライダー達とそのメカニックによるミシュランタイヤへの適応は、シーズン序盤のフロントエンドからの転倒が多発したことで強調されたが、シーズン終了近くには大幅に減少した。ライダー達とメカニック達は共に働き彼らの共通のゴールを達成したのだ。MotoGPではタイヤメーカーというのはほとんど完璧である必要がある。というのもライダー達の安全はタイヤにかかっているからだ。
レースごとに1200本のタイヤが出荷される
(Photo courtesy of michelin)
案内をしてくれたミシュランの担当に、レースごとに出荷されるタイヤの大体の本数を尋ねた。実際のところこの本数というのは大体ではなく、正確な本数であった。MotoGPの各レースには1200本のタイヤが温度調整されたコンテナに入れて出荷される。これはスリック、レインを含んだ本数である。つまりこの全てのタイヤがレースウィークエンドに使用されるわけではない。
タイヤには価格設定がない
(Photo courtesy of michelin)
MotoGPタイヤについて良く聞かれる質問の1つが、1セットいくらなのか?ということだ。ただタイヤには価格設定がない。ミシュランはMotoGPの唯一のタイヤサプライヤーだ。ミシュランは世界最高峰のライダー達が勝利出来るタイヤの開発のためにこの場におり、その技術を発展させ、これをストリート用タイヤに還元するために参戦している。そのためこのタイヤコストに関してはミシュランの研究開発費の予算に含まれているのだ。この価格は販売されるものではないため、タイヤ1セットあたりの価格も存在しない。それよりもイベントごとにかかるコスト、技術者の人件費、タイヤのセットアップ、バランシング、モニタリング、タイヤ自体の輸送費などがかかるのだ。加えてレースごとに情報の収集のため、化学者とエンジニアが帯同する。また、シーズン中に掛かるコストに加えて、様々なトラックでのテスト費用も開発費に含まれる。当然こうした費用は全て計算されているわけだが、一般には公開されない。
ミシュランはレースごとに19人のタイヤ技術者を送り込んでいる
(Photo courtesy of michelin)
シーズン全体で19人のタイヤ技術者が、MotoGPとともに世界を飛び回っている。パドックのミシュランのエリアには10人のフィッターがおり、全てのタイヤ交換と、コンテナからのタイヤの運び出しと積み込みを行っている。ピットレーンでは9人技術者がチームと共に行動する。この技術者達は、シーズン中につねに同じチームを担当する。そしてミシュランの担当者によれば”ほぼチームの一員”になるのだという。技術者のチームでの役割は、その知識を使って担当するライダーのスタイル、彼らが乗るバイクに合うタイヤの選択のアドバイスを行うということだ。レースウィークの間、技術者達はトラックオンドを計測し、ミシュランとライダーのためにタイヤの消耗データを計測する。
ライダーはレースごとに22本のタイヤの選択肢がある。
(Photo courtesy of michelin)
全てのライダーはレースごとに10本のフロントタイヤと12本のリアタイヤから選択が出来る。ルールは特定のコンパウンドのタイヤについてレースウィークごとの本数を制限している。例えば、各ライダーは22本を超えない限りは、最大で5本のソフト、5本のミディアム、5本のハードタイヤを(フロント/リアそれぞれ)選択出来る。タイヤの選択肢はレースウィークの開始時に決定されるが、必要であればライダー達は最大で4本タイヤ選択の変更をすることが可能。Q1をトップ通過した2人の選手は、Q2で追加で1セットのタイヤを使用出来る。
タイヤはミシュラン工場を出てチームからミシュランに返却されるまでトラッキングされている
(Photo courtesy of michelin)
タイヤはミシュランからチームに対して貸与されているものであり、所有権はミシュランにある。すべてのタイヤにはバーコードがあり、これはラックから取り出される際にスキャンされる。タイヤはピットボックス内でもスキャンされ、ミシュランに返却される際に再びスキャンされる。ミシュランの担当によると”我々は全てのタイヤが今どこにあって、誰が使用しているのかを常に把握出来ます”とのことだ。もしチームがタイヤを混同したりすると、ライダーは失格処分となる。タイヤはチームが使用していることから、タイヤごとの周回数、タイヤ温度、空気圧、その他の情報は、ピット内の技術者によって管理される。
(Photo courtesy of michelin)
この写真にある記号については、上から「✕印」は再使用禁止、「番号」はライダーのゼッケン、「それ以下」はシリアルナンバーとなる。全てのタイヤは分析のために、ミシュランテクノロジーセンターに送られる。一度全てのタイヤの検査が終わると、これらのタイヤは廃棄される。
ミシュランはタイヤ空気圧センサーを2017年のタイヤトラッキングに使用している
(Photo courtesy of michelin)
全てのホイールに搭載される空気圧センサー(TPS)は、個別のコードと周波数を持っていることから、2017年からミシュランは実験的にタイヤシリアルとTPSのペアリングを行っている。これはレース前にタイヤのリムをスキャンすることで、各ライダーがレースに選択したタイヤコンパウンドのうち、どれが良い結果を得たのかを理解するためのものだ。良い目を持ったファンであれば、タイヤサイドのカラーコードを見ることでライダーがどのコンパウンドのタイヤを選んでいるのかを見ることが出来る。スリックではホワイトがソフト、無印がミディアム、イエローがハードといった具合だ。
タイヤのランアウトは1mm以下
(Photo courtesy of michelin)
タイヤバランサーのトップにワイヤーが飛び出た箱があるが、5本あるレーザーのうち1本でタイヤのランアウト(ホイールが回転する中で、タイヤがトレッドセンターから揺れる現象)を計測している。この計測誤差は1mm以下となっており、タイヤはリムに完璧に装着されている。この基準を満たさないタイヤは新しいものに交換される。
タイヤは温度調整されたコンテナで輸送される
(Photo courtesy of michelin)
こうした特別なタイヤには揮発性の薬品が使用されているため、タイヤは工場からトラックまで温度管理されたコンテナで輸送される。コンテナは航空輸送の前に冷えすぎる事がないように温められる。理想的にはタイヤは華氏50°-70°に保たれるのが望ましい。
タイヤを最後に選ぶのはライダー
(Photo courtesy of michelin)
技術者はタイヤ選択に関するアドバイスをすることが出来るが、最終的に決定を下すのはライダーだ。例えばライダーが技術者の提案するタイヤを使用しなかった場合については、2016年のオーストリアGPのイアンノーネを考えてみると良い。ほとんどのライダーの選択と異なり、イアンノーネは最後にフロントにソフトタイヤを使用することにした。これはミシュランの技術者を大いに驚かせたが、レースの最後にはイアンノーネは自分の選択が正しかった事を、Ducatiに2010年以来初めとなる優勝をもたらしたことで証明した。
新しいタイヤコンパウンドは僅か3日で制作される
(Photo courtesy of michelin)
昨年ブリヂストンの時代から、ミシュランがタイヤコンストラクターになった後に、タイヤのコンパウンド変更は凄まじい速度で行われた。しかしこれは一般的なことではない。通常、コンパウンドはそれまでのレースやテストなどの経験を元に作られる。全てのトラックが異なることから異なるコンパウンドが必要となり、そのトラック専用のタイヤが供給される。例えば、ロサイルでは半分以上のコーナーが右コーナーであることから、右サイドに大きなストレスがかかるということで、アシンメトリック(左右非対称)のコンパウンドが使用される。またロサイルでは砂がタイヤの消耗をさらに加速させるため、例えばCOTAで使用されるコンパウンドとは異なるものが必要となる。
スコット・レディングが昨年ハイスピードでアルゼンチンGPで転倒した事を考えても、ミシュランがいかに自体に早急に対応したかを見ることが出来る。ミシュランは事故が発生したタイヤの使用を禁止する以外の事は出来なかったが、ミシュランはより強固なカーカス構造を持ったタイヤの使用を義務付けることで対処をした。しかしミシュランの技術者はこの問題に対応した新しいタイヤを作る事が出来、これを1週間後のCOTAに届けたのだ。
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