ヤマハのリン・ジャービスは、2020年はアップダウンがあった1年と振り返る。開幕からファビオ・クアルタラロが結果を出したもののその後失速、対象的にフランコ・モルビデッリはシーズン中盤からスピードと安定感をファクトリーAスペックバイクで発揮、ファクトリーガレージではマーべリック・ビニャーレス、バレンティーノ・ロッシが安定した成績を残すことが出来なかった。

来年はカル・クラッチローをテストライダーに迎え、充実したテストプラグラムでバイクのシャーシ開発をしっかりと進めていきたいと意気込む。なお、ホルヘ・ロレンソとの契約を更新しなかった理由は、単純にレーシングスピードを持つカル・クラッチローのほうが現在のヤマハには最適と判断したからとのこと。ファビオ・クアルタラロ

年間を通じて8基のエンジンを封印した

リン・ジャービス

「今年については誰にとっても難しい1年でした。COVIDの状況でレースを進行することは難しいことでしたし、その中でなんとか14戦を行うことが出来ました。ヤマハの場合は開幕1、2を2連続で獲得して始まりましたが、アップダウンがあった1年でした。」

ヘレスで優勝が出来たわけですが、すぐにバルブの問題が明らかになりました。開幕戦からFPでマーべリック、レースでバレンティーノ、フランコ・モルビデッリがレース2でエンジン停止となりました。
マーべリック・ビニャーレス

「そしてこの問題によって1年を通じてヤマハは苦しめられました。ライダー達が素晴らしいパフォーマンスを発揮するのに大きな障害となる時もありました。回転数を抑えるようにエンジンをデチューンもしましたし、年間を通じて8基のエンジンを封印したんです。

「ですから非常に奇妙でストレスがかかる状況でのレースとなったわけです。そしてバレンシアでペナルティーを受けたことで、チームチャンピオンシップは絶望的となりました。」

「ライダーズタイトルについて影響はなかったのは幸いでしたが、COVIDの状況、そしてこうしたエンジンの問題を抱えながら戦うのは非常に大変だったんです。これらがヤマハにとって大きな重荷になっていたわけです。」

「ペトロナスが6勝したように、ヤマハのバイクは多くのレースで優勝出来るスピードがありましたし、ファクトリーも1勝しています。しかしタイトル争いは出来ませんでした。今年は素直にジョアン・ミルとスズキが素晴らしい走りをしていたと思います。」
バレンティーノ・ロッシ

成績が安定しないのは過去3年変わっていない

ヤマハのバイクの成績が安定しないのは、過去3年間変わっていません。グリップの有無、ブレーキングの難易度によって成績がばらついてしまいます。今年は3台同じスペック、1台が異なるスペックで挑みました。」

2020年ファクトリーバイクと、2020年Aスペックバイクではベースとしているものが異なり、フランキーはAスペックバイクでシーズン後半に3勝を達成しています。ヤマハのバイクはたしかに成績が安定していませんが、これはバルブの問題とは関係ありません。これは残念ながらバイクの基本的なデザインによるものだと言えると思います。

ライダー選択は常にギャンブルの要素がある

「2021年2022年のライダーたちに関しては満足しています。6メーカー全てが、ワールドチャンピオンになるためにはライダーの選択が非常に重要だと理解しています。」
ファビオ・クアルタラロ
そしてそのプレイヤーたち全てが、ライバルに強力なライダーを奪われたくないと考えているわけです。ですから昨年ヤマハはマーべリック・ビニャーレス、ファビオ・クアルタラロを確保しました。」

ライダーを決めることは常にギャンブルの要素をはらんでいて、どのタイミングで意思決定を行うのかが重要になります。その時点で把握している実力などから判断し、そのラインナップで戦うしかないわけです。」

来年の開発は3名のライダーが主に関わる

「バレンティーノ・ロッシは15年間ヤマハのファクトリーチームで走ってきたライダーです。 もちろん7年間、8年間で別々の15年間ですけどね。 来年バレンティーノはフルファクトリー体制でレースに挑みます。 最新のバイクを使用するわけですが、開発はファクトリーチームが主導します。しかし ヤマハにとって彼のデータ収集能力は非常に重要なものになります。
バレンティーノ・ロッシ
「来年以降の開発についてはマーべリック・ビニャーレス、ファビオ・クアルタラロ、バレンティーノ・ロッシの 意見をもとに開発が進むことになるでしょうが、一方でフランキーを抱えていることで面白いデータを得ることができるのも事実です。 おそらく、バイクの開発体制に関して大きな変化は無いと考えています。」

旧型が成績を残したとは言えない

旧型のバイクの方が成績を残したと言う言い方は正しくないでしょう。今年は2020年ファクトリーバイクと、2020年Aペックバイクで参戦しているわけです。そしてファビオは2020年ファクトリーバイクを使用し、フランキーは2020年Aスペックバイクを使用したということです。バイクの開発は常に前進するものではなく、時には後退することもあるわけです。
フランコ・モルビデッリ
ファクトリーバイクの場合は、開発がストップする事は許されず、常に未来を見て結果を残すために改良を加え続けているものです。こうした環境の中でフランキーは特別に素晴らしい成績を残したと言えるでしょうし、昨年のファビオに関しても同じことが言えます。ファビオは昨年優勝することはできませんでしたが、あのパッケージで非常に力強い走りをしていました。」

時には既存のパッケージを煮詰めていったほうが、常に最新のパーツを試しながら開発していく場合よりも結果を残せることがあります。ですから、マシン開発は常に色々な物事のトレードオフの関係にあり、バランスが重要になるんです。」

今後の開発はより細部まで気をつかうことになる

「今回のバルブの問題については、今年の問題ではなくて、昨年の中盤の問題が明らかになったものなんです。バルブのサプライヤーから7月頃にこの先の部品供給が難しいと伝えられました。」
マーべリック・ビニャーレス
ヤマハはレギュレーションを誤解したまま2つのサプライヤーにバルブを発注してシーズンを迎えましたが、 レギュレーションを正しく解釈していないのかもしれないと気づいたというわけなんです。エンジンの耐久性に関してもバルブの問題以外は非常に優れた耐久性を持ったエンジンです。いくつかのエンジンを使用できなくなったために、エンジンによっては3000キロ走行しているものもあります。」

今後のエンジン開発については、細部にまで気を使い、シーズンを通じてどのような状況で戦っていくのかをしっかり考え、エンジン部品とレギュレーションについてしっかりと理解をしていくことが重要になるでしょう。

「ですから、今後のエンジン開発については確認により多くの時間がかかることになるでしょう。来年は同じエンジンを使用することになりますから、明らかに馬力については不足している状況は変わらないでしょう。新しいエンジンの開発については2022年を待つことになると思います。」
カル・クラッチロー

カルにはレーシングスピードがある

「バイクの成績が安定しないことはずっと問題です。今年は新しいバイク、新しいエンジン、新しいシャーシでほとんどテストができていなかったこともまたマイナスの要因だったでしょう。今年はテストを日本テストチーム、ヨーロッパテストチーム、ホルヘを交えて行おうと思っていました。

「しかし実際出来たのは開幕前のセパン、そしてポルトガル戦の前に行った事前テストのみでした。今年は本来予定していたテストは全く行うことができていないんです。ホルヘは素晴らしいライダーだと思いますが、バイクが抱える問題は時間がなかったこともあって解決出来ずにいるんです。

来年はカルをテストライダーに迎えます。彼がハードワーカーだと言う事はよく知っていますし、ヤマハとしても同じミスを何度もするつもりはありません。ですから来年は充実したテストプログラムを用意していくつもりです。

「エンジニアリングに関しても今年様々なデータを得ることが出来ましたから、来年は間違いなく進化したシャーシを投入することになるでしょう。そしてプレシーズンのカル・クラッチローのコメントも得られるでしょうから、今抱えている問題を解決することができると確信しています。

「ホルヘがセパンでテストした時、彼がバイクに最後に乗ってから4ヶ月が経過していましたが、彼はスピードを発揮しました。それからCOVIDになり、何も出来なくなりました。ポルトガルでテストを行った際、ホルヘはその間全くバイクに乗っておらずという状況だったんです。」

来年を考えた場合、ホルヘは1年半以上バイクに乗っていないことになり、対してカルはフルシーズンを戦った状況で来年を迎えます。カルはレーシングスピードに慣れている状況ですし、この仕事に対して非常に前のめりです。ですから、今の時点はヤマハにとってカルが最適な選択だと考えたわけです。」

(Source: yamaha-racing)

(Photo courtesy of michelin)