自身との闘いを振り返るマルケスの言葉
レース終了後、マルケスは長らく戦ってきた自分自身との闘いを語った。かつては「引退すべきだ」と揺れる自分と、「続けるべきだ」と信じる自分がせめぎ合っていた。しかし最後には直感を信じ、100%を尽くしながら決して諦めなかった。タイトルを掴む瞬間には涙さえこぼれ、「過去は振り返らない、今を楽しみたい」と宣言。日本で一巡した運命を感じさせる舞台裏を語り、今季の歴史に残る復活劇がいかに彼にとって特別なものであるかを振り返った。

最大の敵は自分自身だった
「不思議な感覚です。楽しい、嬉しいと感じています。過去数年間いろいろなことと戦ってきましたが、最大の敵は自分自身でした。1人のマルクは引退しろと言っていましたが、もう1人のマルクは続けろと言っていました。最終的には自分の直感に従っていましたが、100%の力で尽くして決して諦めないようにしていました。ついに目的を達成出来ましたが、過去を振り返りたくありません。とにかく現在を楽しみたいですね。数字やタイトルの獲得数ではないと常々言ってきましたが、この挑戦は自分自身の中で過去最大の挑戦でした。毎週勝つことが当たり前で、タイトルも獲得を続けてきた中で転倒し、完全に打ちのめされました。しかしこの挑戦の中でも多くの人が助けてくれました。本当に多くの人が自分を助けてくれましたし、自分の直感を支援してくれました。」



日本で巡った運命とタイトル獲得の意味
「今回日本でタイトルを獲得しましたが、前回タイトルを獲得したのも日本で、そして直感に従って自分が信じる道を進もうと決断したのも日本でした。そして今回の表彰台も2つのDucatiチームと、自分が所属していたホンダチームでした。自分にとってはまるで物事が一巡したかのような完璧な結末だったと感じました。」
涙と共に迎えた感動のフィニッシュ
「今日は感情をコントロールできると思っていましたが、タイトル獲得で涙を流したのは人生で初めてでした。最終ラップの最終セクターではすでに泣き始めていて、自分の涙とペッコのバイクから出る煙で前が見えない状態でした(笑)ジョークはさておき、感情をコントロールするのが出来ませんでしたね。レース前からも感傷的になっていたんです。」



偉人との比較ではなく、自分らしさを追求
「自分自身で何を成し遂げたかを語るような人間ではありませんが、周囲の人達は過去の偉人と比較をしようとします。自分はただ100%の力で挑んできました。自分はとにかくチャンピオンシップ優勝を追い求めてきましたが、同時にバイクに乗ってライディングを楽しめるようになることを追い求めてきました。そして何よりもキャリアを継続することを望んできました。多くの人が自分を他のスポーツの偉人と比べてくれますが、自分は自分です。自分らしいキャリアを続けていきます。」
レース中の駆け引きとリスク管理
「今日はいつもよりも固くなっていましたし、アコスタを抜くのもタイヤが摩耗してからにしようと決めていました。自分のペースがいいことはわかっていましたからね。2位になったあとはペッコとジョアンとの差を維持していたんですが、ジョアンがプッシュしてきたので、自分もプッシュをしないと行けないと思ってペースを上げました。ペッコのバイクから煙が出始めた時、もしその影響で転倒するようなことがあるとすると、真後ろにいる自分ですから警戒していました。しかし自分も含めて誰も影響は受けなかったので良かったですね。」
今を楽しみ、未来を見据える
「今後は何が起こるかわかりませんから、今はこの瞬間を楽しんでいきたいと思っています。キャリアは続いていきますが、いつかは引退をします。その時になって満足出来ていればと思います。もちろん自分自身の野望は途絶えていません。今回のタイトル獲得は2019年のような感触です。シーズン前からフィーリングは良かったですし、メインとなるライバルも1人でした。自分自身の戦闘力も安定していて、レインでも寒くても暑くてもトップで走行出来ていました。異なるサーキットでもストップアンドゴーのサーキットでも高速サーキットでもそうでした。これが重要だったと思います。すべて22戦で優勝することは出来ませんが、22戦全てでトップ争いができることが重要なんです。」




「MORE THAN A NUMBER」に込めた意味
「MORE THAN A NUMBERというのは今回掲げていたフレーズですが、今回のチャンピオンシップは自分にとってはチャンピオンシップ以上のものでした。自分にとってはキャリアの中で最も困難なチャレンジでしたし、自分が過去経験をしてきたものを他の人に説明することも難しいですし、理解してもらうことも難しいもので、説明もしません。また同じ経験を誰かにして欲しいとも思いません。自分の情熱がこの場で再び戦うことを可能としてくれましたし、この情熱がなければ今日のカムバックを実現することは出来なかったでしょう。」
苦難の過去と感情の爆発
「6年前は挫折を知りませんでした。ただ栄光に浸るだけだったんです。2010年から怪我はありましたけど、3ヶ月か4ヶ月離脱して再び勝利できるようになっていました。4年間も戦列を離れ、4回腕の手術を行い、さらに腕の怪我を重ね、2回の複視を経験していましたから、本当に困難が続きました。こうした背景もあって最終ラップは感情をコントロール出来ず、ヘルメットの中で泣いていました。ブレーキングポイントも見えないほどでしたが、自分も人間です。多くの人が色々な才能があるように、自分自身も自分ができることの中でベストを尽くすだけです。」